オレは九州のK市に住んでる、A(面倒イヤなんで仮名)。
今、変な貸し本屋の店長してる。
店長っていっても店員一人だし、夕方5時くらいからぼちぼち準備して、お客さん来たら相手するくらい。
そんなに客も来ないし、その間マンガ読み放題。
本が好きなんで、たいした給料じゃないけど続いてる。
店は薄汚れたトタン貼り、置いてる本は古本。
変な店だ。
オーナーの趣味で古道具やら変な工具やら謎の人形が置いてあるし、やたら暗い。
雨の日なんか本の背表紙が読めないくらいだ。
オレ目が悪いんで、おそるおそる「暗すぎますよ」とオーナーに文句言ったら、
「アンタ、若いくせに爺さんみたいやん」と笑われた。
オーナーは年齢不詳のおばさんだ。
いつもメガネがずり落ちてて、どこか挙動不審。
オレがK市の中古本屋で日野ひでしを立ち読みしてたら、いつのまにか後ろに立ってて
「アンタ、古い本好きなん?バイトしない?」と声を掛けてきたのだ。
名刺だけもらって、そのときは逃げたけど、ふと興味が湧いて店に行ってみたら
駐車場で草取りしてるおばさんに見つかって、ニコニコと迎えられた。
うっかり中に入ったのが間違いだった。
置いてある本が好きな本ばっかりで、テンション上がって読ましてもらってたら、
スッとコーヒーが出てきて
「好きなだけ読んでいいよ。ワタシ草取りがあるから留守番しといてよ」
「いいっスよ」
それから店番頼まれるようになり、いつのまにか店長扱い・・・
オーナーも変だが、お客さんも変だ。
会員制で、紹介でしか会員になれないから、一般客は来ない。
看板も出してないくらいだ。
なのに、いろんなタイプのお客さんが来る。
絶対目をあわせようとしない背の高い天パの男の人は、デザイン関係の雑誌をいつも借りる。
長いレースのドレスをいつも着てる高齢の女の人は、ハーレクインロマンスを二階に持ち込んで、コーヒーをがぶ飲み。
いつも指の黒いショートカットの女性は、「新しい本どれ?」と聞く。
(全部古本なのに新しいのって言われるとヘンなんスけど)
たまに来るツナギ着た男性は、車雑誌を一冊とってすぐ二階へ。そのまま寝転んで寝てる。
親子で来るのもいて、一見普通なんだけどエログロな本ばっかり借りていく。
(教育上、どうなんスかね)
たてがみみたいな髪の毛の声のでかい男の人は、いつもオレの後ろを見て
「いいおばあちゃんに守られてんね。腰に気をつけなって言ってくれてるよ」と霊視する。
(詳しく聞きたいけど聞けないっス、怖いっス)
一番ヘンなのはオーナー。
いきなり来てはカウンターに駄菓子を置いて、「アンタにじゃない、お客さんにあげて」と偉そうに言う。
(今時の大人が駄菓子で喜ぶかっての)
でもメモ紙に新聞チラシの裏が白いのをちまちま切って使うほどケチ。
二階でブツブツ言いながらネット見て、コーヒー飲んで散らかして、お客さんが来るとそーーっと逃げるように下りてくる。
そして無言で帰っていく。
たまに機嫌がいいと
「今度また新しい会員さん来るけん、よろしく。その人ね、かわいいけど変わってるから、楽しみやね」
と嬉しそうに話しかけてくる。
「(言われなくても、みんな変わってるっス)どこでスカウトしたんスか?」
「米軍ハウス」
「・・・」
「じゃねー、あ、草取りしといてよ。アンタ若いんだから」と帰っていく。
この人には脈絡ないっス。
この人には説明ないっス。
なんで草取りしなくちゃならないっスか、オレ腰痛持ちなのに。
この前なんか、店に荷物が届くというから何かと思ったら、どでかい本棚とソファー。
すげー重くて死ぬかと思ったっス、腰マジ逝くことだったっス。
次の日にひょこっと来て、「やっぱりでかいのはいいね〜」とメガネずりあげながら、ソファーにゴロゴロ・・・
軽く死ねばいいのに。
あ、お客さん来た。
時々来る、坊主頭のミリタリー好きの人だ。
いい人だけど、一度質問したら延々と細部にわたって説明されて困ったっス。
静かに対応しよう・・・
カチカチ時計の音。
好きな本を探すお客さんの気配。
案外この店嫌いじゃないっス、マジで。
なんてね・・・